2017年07月04日

トゥルーマンショーはシリアスな内容を高度な技巧でまとめていて、なおかつ明るいすごい映画。

ジムキャリー続きで「トゥルーマン・ショー」を。
これも面白かった。

これはネタバレすると面白さが落ちてしまうタイプの映画なので、出来るだけネタバレしないように書くけど、ネタバレする気もするから観てない人は読まない方が安全かもしれない。

とにかく、そのネタが分かる瞬間の驚きと、そのネタ自体が面白いし、ジムキャリー演じる主人公トゥルーマンが非常に良い。

ジムキャリーといえば、前に描いた「イエスマン」もそうだし、有名な「マスク」でもそうだが、コメディーに強い。
あの笑顔の表情は非常に秀逸でパワーがある。あの笑顔じゃないと進めないストーリーもあるだろうってくらいパワーがある。普通の役者が笑ってもあれにはならない。
しかし、トゥルーマン・ショーはコメディーではない。全て見終わると分かるがかなりシリアスな内容の作品だ。

一見多少の謎がある入り方だが、始まると非常に普通な人間トゥルーマンの日常が始まる。
トゥルーマンは非常に普通のサラリーマンだ。
何かといろいろ普通。
「何?この主人公?普通だなー。この映画この主人公で何が起きるわけ?」
と疑問に思うほど普通だ。
ジムキャリーの演技が普通なサラリーマントゥルーマンをより一層気の良い平凡なサラリーマンに見せてくれる。アメリカ人にいそうな陽気な男だ。奥さんがいて、保険の営業マンみたいな普通の仕事をしている。
ちょっと変わっていることと言えば、トゥルーマンは水が怖いこと、昔、自分が原因で父親を海で死なせている。トゥルーマンにはかつて好きな人がいて、今も雑誌の女性を目の部分や鼻の部分だけ切り抜いて組み合わせて、その女性を再現しようとしている。その女性は非常に謎めいていて、出会ってすぐに消えてしまったが、トゥルーマンは今でも未練があるらしく、雑誌の切り抜きを奥さんにバレないようこっそり組み合わせ続けている。
その女性がタヒチだか何だか忘れたが、とにかくトゥルーマンの住んでいる島の外にいるかもしれないから、トゥルーマンは旅に出たいという願望を持っている。平凡なサラリーマンの日常など捨てて、とにかく島を出たい。
でも、当然だが奥さんに止められるし、トゥルーマンは水が怖いから島から出られない。
でも、まあ、基本的には普通の男、トゥルーマン。

しかし、そんな普通なトゥルーマンだが、どうも日々に妙なことが起きるようになっていく。何かと変なのだ。どうもみんなが自分を監視しているような感覚をトゥルーマンは感じていく。
スクリーンを通して観ている我々も何かはハッキリ分からないがトゥルーマンは何者かによって、何かの企みにハメられているのが分かるが、しばらくはその正体は分からない。
トゥルーマンも妙だと思っているが、我々、視聴者も妙だと思い始めるが、何かはしばらく分からない。組織か何かがトゥルーマンを監視しているということは間違いないのだが、一体何かまでは分からない。勘のいい人は分かるかもしれないが。
何にせよトゥルーマンは危険を感じて、島から逃げ出してどこかへ行きたいと強く思うようになるが、やはり世界がまるごとグルになってトゥルーマンを阻止するように動くのだ。

ーーー

ここからネタバレするのだが。
この映画はやっぱりネタバレ無しで感想を書くのは無理がある。

トゥルーマンの住む世界は実は作り物の世界で、いくつもの隠しカメラでトゥルーマンの生活を撮り続けているテレビ番組の世界なのだ。島とその周りの海を囲った巨大なドームのようなもので包まれた世界なのだ。
このことをトゥルーマンは知らない。
何せ赤ん坊の頃からずっと24時間365日、トゥルーマン・ショーという番組は全世界に流れ続けていて、大人気番組なのだ。
トゥルーマン以外の人々はみんな役者で、街などもすべてセット。トゥルーマンは水が怖いので、生まれ育った島から出られない。
言うなれば、トゥルーマンは赤ん坊の頃からダマされ続けているのだ。

違和感、奇妙な感覚の正体、トゥルーマンの世界の秘密を我々視聴者は中盤くらいで知ることになるのだが、これがなかなかショッキングだ。
なぜって納得出来てしまうからだ。
普通の人間の日常を覗き見たいという願望は多かれ少なかれ誰しも持っている。
人を一人、生まれた頃から騙し続け、隠し撮りし続けて世界に24時間流し続けるという、道徳的に許されない行動だが、もし、そういう番組が実在すれば見てしまうだろうな、と納得させられる。
これは結構ショッキングだ。
単にどんでん返しが決まったショックじゃなく、言うなれば人間の悪の心みたいなのが自分の中にもあるというショックだ。

しかし、トゥルーマンを騙している番組制作者はこのことについて罪悪感はなく、むしろ外の普通の世界以上にトゥルーマンは恵まれているのだと考えている。作り物と言えど、気付きさえしなければ、トゥルーマンは平凡なサラリーマン、言うなれば平凡な幸福の中に生きていて、そういう暮らしをトゥルーマンに提供してあげているのだから、と。
これもなかなか我々は共感出来てしまう。
現実の世界って何かと厳しい、大変というのを、現実の世界に生きる我々は知っている。
平凡なサラリーマンで、世間で言うところの面白みはないものの安定した日々が平和にやって来るっていうことが割と幸せなことだと知っている。

もちろん、そんな作り物の世界に人を閉じ込めるってのは悪いことってのは分かるし、何が起きるか分からないからこそ人生は面白いってのは分かってはいるのだけど、覗き見したいという人間の欲求、そして作り物といえど平和な世界の良さってのは理解出来てしまう。
悪いことだと分かっていながら、理解出来てしまうってのはショックだ。
この映画のミソは正にこのネタが分かった瞬間に、複雑な気持ちに我々を追い込むってところだろう。

ーーー

我々映画の視聴者が気付いた後も、トゥルーマン自身はその世界の秘密を知らない。ただ、自分は何者かに監視されていて、どこかへ逃げねば危険だとだけは分かる。
カメラの目を盗んでトゥルーマンは逃げる。水を怖いのも何のその、小さな小舟で海に逃げる。番組制作者は何とかして止めようと天気コントローラみたいなので嵐を起こす。止められなければ殺してしまっても良いと。
しかし、トゥルーマン頑張って逃げる。

これに対してトゥルーマン・ショーを見ている映画の中の視聴者たちはトゥルーマン頑張れと応援を送る。
これまでずっと覗き見して来ておきながら、頑張れなどとムシは良いが、実に絶妙だ。映画の外の視聴者である我々と同じで人間なのだ。
この複雑な構造が面白い。

嵐にも負けず、最後に船はとうとうトゥルーマンを騙し続けていた世界を囲っているドームの壁に突き当たる。水平線の絵が描かれた壁に船の先がドンと突き刺さる。
このシーンがなかなか良い。
作り物の世界の壁が絵に描いたようにバスッと穴が空く。
世界の壁に穴が空く。非常に良い絵だ。実に絵になる。誰しも心のどこかで世界の穴を多かれ少なかれ夢見ている。もちろん、我々の世界には実際には穴は開けられないが、トゥルーマンの世界では可能なのだ。
本当にこの絵は良いと思う。新しい世界を求め苦手な水どころか、嵐を乗り越えた先にある世界の壁。そこに小舟の頭が突き刺さる。
心に響くものがある。

トゥルーマンが世界の壁沿いに歩いて出口の扉の前に立つと、番組制作者が話し掛ける。
本当に良いのか?この中の世界の方が安全だし素晴らしいぞ、みたいなことを言う。
これに対してのトゥルーマンの答えが素晴らしい。
ジムキャリーじゃないと出来ない素晴らしいラストになっている。

ーーー

技巧を用いたどんでん返しというタイプのストーリーで、なおかつ映画の中の映像作品という二層構造を持たせた、非常に技巧的なストーリーだ。
複数の層の構造を持つ映画としては「インセプション」なんかも夢の中の夢、そのまた下層の夢と世界を複数構造に作り込むことで面白さを作っているが、夢の話という時点でやはりリアリティが落ちてしまう。SFにしたってやはりリアリティは大事だ。インセプションも面白いけど。
その点、トゥルーマンショーは映画の中の映像作品の中の人物であり、言うなれば実現可能、リアリティがある。
この構造をどんでん返しで一気に示して来るんだから、この映画のストーリーは物凄く高度な技巧を使っていると言える。
扱っている問題も割とシリアスだ。人間の覗き見願望みたいなところや、作り物の温室の世界というメタファーは何とでも広げられる。

そういうシリアスな内容だが、ジムキャリーの明るさで上手くまとめている。
撮り方によってはいくらでも暗くできる内容だし、バッドエンドにしてもある程度まとまるような内容だ。
むしろ、どんでん返し系のストーリーは暗くまとめる方が多い気がする。特にシリアスな内容ほど、そういう傾向はあるだろう。

ストーリーを作る上で悲しみとか暗さってのは人間の感情を煽る上で楽なのだ。何せ人間誰しも道徳感情ってある。かわいそうだとか、ひどいだとか、悲しいとか、ショッキングとかネガティヴな感情の方が心に残りやすいし、考えさせるには都合が良いからだ。
明るいホームアローンで何かを深刻に考える人って少ないと思う。
それに対してナチスのユダヤ人収容所の話、例えばライフイズビューティフルなんかで何も考えない人は稀だ。

だからこそ、明るい話は難しい。
トゥルーマンショーが優れている映画というのは、単なる高度な技巧のどんでん返しの驚きじゃなく、シリアスなテーマ、技巧的なストーリーなのに明るくまとめているところにあると思う。

まあ、そんなこんな。
posted by ちょろり at 19:54| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする