「あれ? 店長、今日は早上がりなんですね」「うん、記念日だから」
ちなみに店長は結婚はまだだ。店長はまだ若い。しかし、記念日で早上がりって社会人としてどうなんだろう、なんて思いつつのさすがの店長だ。
しかし、ここのところは年末年始も終わり前と同じ暇なピザ屋さんに戻りつつある。年末年始は忙しかった。代わりに今年は大道芸の方は年始のイベントのオファーが来ず、少し寂しくもあった。同じパターンのショー編成を2年近くやっているから飽きられつつあるのかもしれない。相方のトッポ氏と何かしら作戦会議が必要だ。
しかし、トッポ氏も僕も昔ほど暇じゃなくなった。あの当時はどちらもちょうど空いた時間が多い時期だった。それに対し、今はトッポ氏は会社員をしつつ大学の博士課程に進んでいて多忙で、僕も大学の単位を集めつつ、いつでも次の締め切りが迫って来る執筆作業にも当たらねばならない。ちなみに僕は本気で小説で飯を食う予定なので、実はそれなりに苦労もしている。まあ、それなりにだが。
だが、そんな理由で大道芸を辞めるとあってはプライドが許さない。大道芸ってのは、言うなればおかしなことや変わったことをして人に笑われるものだ。良く言えば、人を感動させるものだが、やはり笑われるという方が正しい。はっきり言ってかっこよくはない。それでも、僕が大道芸を続けるのはそこに正しさがあるからだ。
そりゃ、たまにはね、せっかくステージに立つならお洒落で女の子にモテるようなヒップホップのダンスや、ロックなバンドなんかやってかっこよくありたいなんてのも思うこともある。実際、ギターも弾けるしさ。
でも、思うにそういうのよりも僕は大道芸をするやつってのは凄いと思う。大道芸ほど観客の笑いを意識してやるステージ演目は無いだろう。というか大道芸ってのは笑いが取れるんならコントでもパントマイムでも何でもやるんだから。そうやって他人を喜ばせることを自分の喜びとできる大道芸ってのは凄いもので、非常に正しく美しいものなのだ。まあ、一般的にはそんなイメージは無くて、ひどい時には生計を為に仕方無くやってるなんて思われていることもある。まあ、そんなやつは好きなように思えば良い。僕は大道芸を通して成長していく。馬鹿にしてるやつは何も成長することなくいつまでも自分より未熟な人間を馬鹿にしている。それだけのことだ。
適当にやっているように見えて実はプライドもあるし、役に立っている。だから、何とか次なる成長をせねばならないのだ。しかし、具体的にどうしたものか。
そんなことを考えながら働いていると店長がまた戻って来て、いつものように裏で何ぞ車をいじりはじめた。しばらくすると、やはりいつも通りタイムトライアルに出かけて行った。
さあ、ナイフを買ったものか、ボールを7つ買ったものか。どちらもお客さんとしては非常に楽しいに違いない。正直、僕としてはボールの方が楽しい。だが、正直なところお客さんとしてはナイフを期待しているだろう。多分、今これを読んでいる人も「おー、いよいよナイフ投げるんか。今度見せてもらお」なんて思っているに違いない。これは悩みどころだ。
ブオンブオン。
店長がタイムトライアルから帰還したらしい。店ももうじき終わるし、一応チェックしに来たのだろう。
そして、裏から入って来た店長は「はい」とだけ言って僕に餃子を渡して来た。そう、それは今やこの辺では手に入らなくなった「ラーメン屋さんの餃子」だった。安い美味い多いの三拍子を兼ね揃えた究極の餃子だ。
店長は相変わらず不思議な人だ。僕はそんな店長が好きだが、やはり他のバイトの中には腹を立てる人もいる。まあ、確かに分からんでも無いが、おもしろいし別に良いでは無いか、なんて思うんだけど、まあ、そう上手く行かないらしい。店長、良い人なのになあ。
ま、そんなこんなのピザデリバリー。
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